先日行われたイベントで、プレミアですごいと感じる選手は誰かという質問に対し、香川真司はトットナム(「スパーズ」と呼ばれることの方が多い。以下「スパーズ」とする。)のボランチのデンベレと答えたという。特にこの話の裏はとっていないが、仮にこの発言の事実があったとすれば、なかなか興味深い。デンベレは昨季フルハムからスパーズへ移籍してきたベルギー代表の25歳の選手である。ポジションは、中盤の底の左側。左利きの選手である。日本代表でいう遠藤と同じポジションということになる(ピッチの左サイドにおいて、右利きの選手が効果的なパスを通すのは難しいといわれているが、遠藤はその卓越した技術で役割を果たしている。)。
11-12シーズンまでデンベレのポジションには、現在レアルマドリードに所属するモドリッチが配されていた。入れ替わるように加入したデンベレは、あのファンタスティックなモドリッチに見劣りすることなくその実力を発揮しスタメンに定着している。
香川真司とデンベレとの一度目の対戦は昨年9月、プレミアリーグ第6節であった。香川はこの試合でゴールを決めているが、試合としては2ー3で敗北している。スパーズとしてはアウェイ、オールドトラフォードにおける実に23年ぶりの勝利だったようだ。
そして直近では1月に対戦している。スパーズはこの試合で、4連勝中のユナイテッドに対し引き分けにもちこんでいる。しかも、シュート数でいえば、トットナムが25に対し、マンチェスターユナイテッドはわずか5にとどまっている。また、パス数をみてみると、デンベレが両チーム最多の55本中50本を成功させている。デンベレが圧倒的な存在感を示していたことが数字からも分かる。後半17分にルーニーと交代した香川はおよそその半分27本(25本成功)にとどまる(ちなみに香川がハットトリックを達成したノリッチ戦では、一方的な試合展開でもあったこともあるが香川は74本ものパスを行い67本成功させている)。もっとも、おそらくデンベレの最大の魅力は、むしろ数字には現れないところにあるといえる。それは、視野の広さと状況判断の良さだろう。的確に「嫌な場所」にパスを供給し続けるデンベレを、あるいは的確なポジショニングでボール奪取するデンベレを、香川は目の当たりにしたのではないだろうか。
★★★
以下、さほど詳しくない筆者によるスパーズ入門を若干記述したい。
スパーズというチームはここ4季、4位、5位、4位、5位と安定した成績を残している。スパーズといえば、ベイルの覚醒が昨季は取り上げられていた。ベイルはもともと左SBの選手であり、SBの実力者(守備面では不安視されつつ)として把握されてきた。例えば元イタリア代表SBのマルディーニは、今年のはじめに発表されたインタビューにおいて、注目している現代的なSBの選手としてベイルの名を挙げていた。マドリーへの移籍が噂された際にも、SBとして起用されるとも言われていた。そんなSBとしても優秀なベイルは、一列前のSHに配置され、その卓越した得点力を発揮していくこととなり、その後、昨季の活躍に至る。
若干の脱線。
コンバートは、ときに選手に劇的な変化をもたらし得る。例えば、都並監督のもとでボランチ起用され、それほど特別な選手ではなかった香川真司は、クルピ監督のもとでトップ下としてその才能を開花させたことは有名だ。また、ピルロはトップ下からボランチへ一列下げることによってその才能がさらに発揮された。すでに特別な選手であったピルロがさらに変身を残していたとは、人々を驚かせた。筆者は日本代表でいうなら、内田篤人のボランチ起用に興味を持っている。本人も関心がある旨の発言をしているところであるが、シャルケにおいては、いくつかの試合でチーム内でのボールタッチ数第1位を記録している、内田にボールがわたり彼が顔を上げることが攻撃のスイッチとなることも珍しくない。まさに代表でいう遠藤のように、彼が顔を上げると他の選手が走り出すのである。このような役割を担える彼がボランチで起用される試合を、いつか見てみたいものである。
話を戻そう。ベイルの他の注目選手を記したい。やはりチームを知っていくには、まず有名選手から入るのがよいだろう。それは例えば、サッカー自体への興味をもたらす際、Jリーグへの興味をもたらす際でも同様であろう。
先に述べたデンベレは、ボール奪取能力も素晴らしいが、ボールキープやドリブルも得意としていることから、一列前に置くことも有効であろう。以前のチームではそのように使われることもあったが、スパーズでは中盤の底に配置されている。怪我により長期離脱したサンドロが復帰し、また、先のコンフェデで印象的な活躍をみせたパウリーニョの加入が発表されていることから、デンベレのそのような一列前での起用が、来季見られるかもしれない。11-12では、モドリッチとパーカーがボランチのコンビであったが、12-13ではデンベレとサンドロが基本線である(今年のはじめにサンドロが離脱してからは、パーカーが入ることが多かった)。来シーズンはどのようなサッカーになるだろうか、期待したい。
CFにはデフォー(ゴール前でのキレが持ち味の身長低めのイングランド代表)とアデバヨール(フィジカルに優れた身長高めのトーゴ代表)がいる。デフォーが怪我で離脱しているときでさえ、アデバヨールが起用されずデンプシーが1トップを務めるなど、昨季はアデバヨールの勢いある姿は正直なところあまりみられていない。
また、右SHはレノンである。あのイングランド代表の足の速いレノンである。清武との交代以降、代表で松井が見られなくなったイメージをなんとなく持っているが、ベッカムとレノンもそのような関係にあったと記憶している。また、イングランド代表の選手でいえば、ウォーカーが右SBを務めている(現状では、代表においてはリバプールのグレン・ジョンソンの控えであるが、23歳と若く、そのスピードや豪快なドリブルは非常に興奮させるものがある)。などといったように、有名どころや若手のホープがいい感じに融合したチームだといえよう。
プレミアの他チームサポの方々からあまり嫌われることのない印象のある渋いチームとして、なんとも魅力的なスパーズである。