リーガといえば、今年の1月10日に破産手続開始の発表をしたデポルティーボのことが思い起こされる。スペインの不況もあり、レアルとバルサといういわゆる2強チーム以外の集客力は明確に衰えている。そのような状況において、デポルティーボは破産手続を開始するに至った。リーガには破産によるペナルティはなかったようだが、結局作シーズンを19位で終え、デポルティーボは降格するに至った。上記のアルバセテに適用されるレギュレーションとの違いは気になるが把握することができなかった。
これ対し、例えばセリエAでは、フィオレンティーナが破産により強制降格している(この場合もやはり、強制降格がなされる前から、主力選手を放出せざるを得ず、成績は低迷していた)。各リーグにより破産・再生手続開始に伴うレギュレーションは異なる。チームの強さや格といったものは、やはりチームの財政と大きく関連することから、財政についてのレギュレーションのリーグ間比較は興味深い。
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財政についていえば、クラブの収入の内訳も各リーグにより大きく異なる。いずれのリーグにおいても、収入の大きな柱は放映権料、入場料、グッズ販売の3つである。
セリエAでは、テレビの放映権料がその収入の多くを占めている。6割が放映権料であり、観客収入は1割強にとどまる。また、グッズ販売も他リーグより少ない。これに対し、ブンデスは観客数が世界一であり、入場料やグッズ販売による収入が多い。プレミアは、そのいずれものバランスがとれており、世界で最も多く収入を得ているリーグとなっている。
ではリーガはどうであるか。
リーガといえば、放映権問題である。昨夜、アルバセテに関するニュースとともに、スペイン政府のスポーツ上級委員会の会長がリーガの緊縮財政政策を発表したとのニュースも報じられている。そこで同会長は、テレビ放映権に関する介入も強調している。
リーガは現在テレビ放映権につき、他のリーグが行っているような、一括でリーグが放映権料を集め各クラブに再配分するということを行っていない(よって現状では2強チームが放映権料を他のチームに比してかなり多く得ている。10-11シーズンのデータによると、バルセロナが25.3%、レアル・マドリーが24.1%。そしてリーガ3位のバレンシアにはたった6.5%の放映権があてられるのみである)。これについて会長は、14-15シーズンから一括管理を始めるという方針を示したという。
一括管理がもたらすものは、配分の公平性にとどまらず、放映権の売却もより見込めるようになるという効果も含まれる。現状ではそもそもの放映権料の総額はプレミアやセリエよりもかなり低い額となっている。一括管理を行えば、2強チームは減収となるが、リーグ全体にとっては増収となるだろう。
放映権の一括管理への動きを受け、レアルのペレス会長は、いち早く他の収益手段の確保に向け動いていると言われている。それは、ベルナベウを全面改修し、多目的施設として増収を図るという手だと言われている。CLのブンデス所属チーム同士の決勝も象徴的であったが(前年度も準決勝でレアル、バルサともに敗退しているが、1stレグでの4点差、3点差の試合は世界に衝撃を与えた)、財政面からもリーガは分かりやすく正念場を迎えている。
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日本についてみると、例えば野球ではリーグごとに収益構造が大きく異なる。
セ・リーグは、放映権収入が主なものである。他方で、パ・リーグは、スタジアムを管理する権利をチームが有しており、スタジアム収入が多くを占めるという。具体的には、看板広告の収入はスタジアム収入の典型であるが、それに加え、ボールパークと称し遊園地や娯楽施設としての機能をスタジアムに担わせ収益を上げている。これは先のペレス会長の方針を想起させる。放映権収入からスタジアム収入へと経営戦略の重点が移行しようとしているのは、セ・リーグ型からパ・リーグ型への移行と言えるかもしれない。
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また、政府や地方公共団体といった公共部門とスポーツとの関連も興味深い。例えば、日産スタジアムの指定管理者(公の施設の管理の権限が付与され、管理業務のみならず利用許可などの一定の行政処分も行うことができる)である横浜マリノスが抱える困難であるとか、町田ゼルビアに対し今年のはじめになされた住民監査請求(これ自体の妥当性は別として、市がクラブへ関与することから生じてしまう様々な問題の典型であろう)といったものについては、また機会があれば詳述したい。
入場料収入と地方公共団体について、セリエAのユベントスの例を残しておく。
ユヴェントスは、2011年9月にユヴェントス・スタジアムを設立しており、これにより入場料収入を3倍近く伸ばし、一気に欧州のトップ10に入っている。
何故これまで収入を増やせたかといえば、この新スタジアムが、クラブ自身が所有するスタジアムであるからだ。クラブによるスタジアム所有は、セリエで初となる。その他のクラブが使用するスタジアムは、自治体が所有するものであり、サッカー専用スタジアムではなく、陸上のトラックがあり観客席とピッチが遠いスタジアムがほとんどである。そして、入場料収入についても、スタジアムの所有者である地方公共団体に半分も流れていた(逆にいえば、ユヴェントススタジアムの設立により、市の収入が大幅に減っているともいえる。この流れが続けば、イタリアにおいてまた別の問題を残す余地もありそうだ)。
ユヴェントスは、かつてホームスタジアムとしていたデッレ・アルピ(スタジアム周辺土地を含む)を市との長年の協議の末、市から買い取ることに成功した。これにより、自前のサッカー専用スタジアムとして新スタジアムを設立し、入場料収入を増やすとともに、これまであった陸上トラックが除去された非常にピッチと観客の近いスタジアムを手に入れることとなった。また、この年に無敗優勝を達成し、試合における成功も、収入の増加に寄与していることも忘れてはならない。財政面、結果面でも劇的な改善をした良い例であろう。